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ゼミナール応用

小田部鋳造の梵鐘づくり



お寺で撞かれる鐘の音。

 その重く深い響きと、次第に澄んでいく余韻は、私たちの心をなごませてくれます。
 この寺院の鐘楼に置かれている梵鐘(つり鐘)を造っている鋳物工場は、国内では8ヶ所、そのうち関東地方では1ヶ所しかありません。その1ヶ所が、桜川市の真壁地区にある小田部鋳造です。
 
 真壁の地に勅許御鋳物師の称号を持つ小田部家が、河内国(現在の大阪府)から、源頼朝によって開かれた鎌倉幕府の新興武家政治の兵備の一端を担うべく馳せ参じたのは、実に800年の昔、建久年間のことでありました。
 鋳造には欠くべからざる良質の砂と粘土を、筑波山麓に発見して、真壁の在に居を定めたといわれています。

 幕末の頃には黒船撃退のための大砲の鋳造を、昼夜兼業で行ったことも記録に残っているそうです。

 現在では、関東地方唯一の梵鐘、半鐘、天水鉢製造元になり、37代目にあたる小田部庄右衛門さんによって家業が引き継がれています。

 小田部鋳造へ赴き、お話を伺ってきました。



■梵鐘って?

 『梵鐘』とは寺院の大鐘のことで、俗に「かね」又は「つりがね」といいます。梵とは、印度語音訳で、神聖清浄などを意味します。神聖な仏事に用いる鐘ゆえに梵鐘といわれています。
 鐘の概略として、上端に竜頭(りゅうず)と名づける環(かん)を設け、その下に笠形、乳の間、池の間、撞座、草の間、駒の爪となります。


 乳の間には乳(ち)と称する小さな突起が多数設けられており、小田部鋳造の梵鐘にでは108個、人間の煩悩の数が付いております。
 池の間には寺院さんによる自由なスペースの一つとして、文字や模様の入る部分があり、最近では小田部鋳造オリジナルの天女を入れるケースが増えているそうです。
 撞座(つきざ)とは撞木(しゅもく)のあたる部分で蓮の華をモデルとしています。
 そして、草の間の模様には勅許御鋳物師として、日本で唯一菊の紋章の使用が許されているとのこと。
 梵鐘は銅と錫の合金で出来ており、重く余韻のこもった響きを持つのが特徴です。鐘の音は銅と錫の配合の微妙なバランスで決まるそうです。
 錫が多いと余韻は長くなるが、もろくて寿命が短くなる……この混合比は小田部家三十七代にわたる「秘伝」です。大きさは口径2尺4寸のものから約1寸きざみの割合で3尺5寸迄が一般的ですが、過去最大のものとしては口径6尺1寸の高さ10尺6寸(3m20cm)、重さ2000貫(約7500kg)の大鐘も造ったことがあるそうです。

■梵鐘づくりの工程

 小田部鋳造のこだわりの製法は今も昔も変わっていません。
 
 まずは型をつくります。型は外枠の鉄の部分以外はすべて土と粘土でできているため、一回一回、新たにつくらなければなりません。もちろん砂や粘土は地元の真壁産です。
 
 梵鐘の半分の大きさの木型型を回転させて、砂と粘土で外型をつくります。その外型の内側に、撞座や池の間の天女の絵、文字を凹型にした鋳型などをはめこんでいきます。


上部には「乳」と呼ばれる突起、百八個を付けます。


 鋳型は四段に分けて根気を要する丹念な手作業のもと、熟練職人が約三カ月かけじっくり仕上げます。
 この型づくりができあがりの形や音質を決めることになるため、「梵鐘づくりの作業の8〜9割は型づくりが占めている」ともいえます。


 梵鐘づくりの中でもっとも大掛かりに行われるのが、型に銅と錫を流し込む「鋳込み」です。この日は納品先の寺院の住職も檀家も小田部鋳造を訪れます。
まずは清めの儀式を行います。




鐘に入魂するための読経が行われる中、作業は進められます。

 
 轟々と燃え盛る炎。「こしき」と呼ばれる鐘専用の溶鉱炉のなかに銅と錫が投入されると、炎色反応によって緑色の炎が立ち昇ります。




合金の「湯」が千二百度。合金の熱い朱色の輝き、火花がほとばしる……


これを外枠と内枠のすきまにイッ気に流し込みます。溶解の温度が低ければ鋳型に湯がうまく流れ込まず絵や突起がきれいにできません。しかし溶解の温度が高ければ、型が壊れてしまします。そしてもし型の内部にガスが充満してしまえばガス爆発が起こる……緊張の瞬間です。

 
 この鋳込みのタイミングや型の位置が少しでもズレてしまうと、鐘の厚みが均等でなくなってしまい、鐘の音色が狂ってしまます。そして、一度鋳込みをしてしまうと、後戻りはできません。型を外してみるまで、成功かどうかはわからない。だからこそ、鋳込みのときは最後の一瞬まで、気を抜くことはできません。



 二日後、鋳型を取り外します。
土でつくった型をバラバラに壊すため、同じ鐘が二度とつくられることはありません。






そして、まだ土が付いているうちに、鐘の命ともなる音色を確認する「ためし撞き」をします。その後約10日間程で土や汚れをきれいに取り除き、やっと完成となります。


■「お化粧しない鐘」

 ちなみに、小田部鋳造の鐘は、型をとった後に着色を一切行わない「お化粧しない鐘」として全国でも数少ない鋳肌仕上げです。そのため、完成したばかりの鐘の色は美しい赤銅色を放っています。
 そして、納めた先の風土にあった自然の緑青(青銅特有のさび)が付くため、一年一年歳を重ねるごとに深みのある独特の色が色着くことになります。
 鐘は鋳造による工業製品ですが、自然の中に溶け込んでいけるよう先人のさまざまな工夫が見られる美術品といえます。

 梵鐘は、その美しさと重々しい余韻のある音色が命といわれ、その音色は「鐘の大きさ」、「銅と錫の配合」、「鐘の厚みの取り方」で決まると言われていますが、数値化されているわけではありません。
 鐘を作る作業はほとんどが手作業になるため、目と体で覚えなくてはならず、良い音色の出せる一人前の職人になるには10年から15年かかります。
 
 小田部鋳造は梵鐘職人として菊の御紋を使うことを許されるほどの伝統がありますが、梵鐘の注文は年に十本まではなく、必ずしも多くはないそうです。
 



 小田部鋳造の鐘の音色はゆっくりと周囲の空気を弛ませます。そして長い時間をかけて、じんわりとその音色を響かせます。
 
 「自然と心がほぐされて、手を合わせたくなるような音をつくりたい」と小田部さん。その響きには、決して平坦ではない鋳物師としての道のりの中で出会った様々な人たちへの感謝が込められているのではないでしょうか。
 大晦日の夜、日本中から除夜の鐘の音色が聞こえてきます。まるで一年間の煩悩を打ち払うように小田部鋳造の鐘は、日本各地で多くの人々の心を捉えています。

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